
- プロボノ
- コミュニティ
出張教室報告(埼玉県立浦和高等学校)
ー西村あさひの法教育プロジェクト
出張教室のきっかけと準備
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業では、法律家としての考え方や弁護士・法曹というキャリアについて中高生に伝える法教育チームがあるところ、東京大学法科大学院出張教室と協働して、埼玉県立浦和高等学校(以下「浦和高校」といいます。)において出張教室を行いました。浦和高校の卒業生である村本静弁護士が参加いたしました。
今回の出張教室では、弁護士の実務をリアリティをもって体感してもらうべく、講義形式ではなく、生徒参加型の模擬交渉を実施することとしました。東京大学法科大学院出張教室の皆さんとコラボする初めての取組みでしたが、当日のシナリオ設計について議論を重ねて入念に検討し、浦和高校出張教室専用のケーススタディを新たに作り込みました。当日は、「公共」の授業の1コマを活用し、高校2年生の文系・理系それぞれ1クラスを対象に授業を行いました。

出張教室の概要
企業間の事業譲渡契約を題材とした模擬交渉を行いました。具体的には、事業譲渡の対象に存在する可能性がある問題の有無を調査するための費用を誰が負担すべきか、仮に調査の結果その問題が発見された場合の責任は誰がどのように負うべきかなどについて、検討してもらいました。売主4チームと買主4チームの計8チームに分かれて、依頼者役である講師からのヒアリングと交渉案の検討を行ってもらい、その後、売主と買主との間で契約交渉を行いました。
生徒の皆さんにとって初めての題材と思われるので、少し難しいかもしれないと考えていましたが、当日は、浦和高校の皆さんに熱心に取り組んでいただき、非常に活発な議論が行われました。依頼者役からのヒアリングでは鋭い視点からの事実聴取がなされ、契約交渉においては実務一般でも展開されるような発想・主張や、具体的な事実関係を踏まえたクリエイティブな解決策の提案などもあり、講師が新たな気づきを得るシーンも多々ありました。

授業の最後に、交渉グループごとに、交渉結果を生徒の皆さんに発表してもらいました。用意されたシナリオは同じであるにもかかわらず交渉グループごとに結果が異なり、契約交渉のダイナミクスや面白さを体感してもらえたように思います。
ご担当の先生・生徒、東京大学法科大学院出張教室の皆様からいただいた感想
生徒の皆さんからは、模擬交渉における議論を楽しみながら、学びや気づきがあった旨のフィードバックをいただきました。一例を以下に記載します。
「自分たち側の利益を通そうとするだけでは全くうまくいかないところが非常に難しいと思った。相手方とうまく折り合いをつけるために譲るところと譲らないところの線引きをつけるのが大切というのは、これからいろいろなことに活かせそうでとてもためになった。」
「交渉はともかく論理的に、明確な根拠でもってやらなければならないものだと考えていたが、個人的な良心や社会的意義などの部分も加味できると知り、そこの塩梅もありより難しいものなのだなと思った。」
「内容として交渉のしがいがあるものだったので、楽しかった。結果としてはなんとかこちらが飲める条件に落とし込むことができたが、最善の選択を取ることができなかったので限りなく失敗に近い成功になってしまった。心残りであるが、交渉の難しさを知ることができた。」
「交渉を通じて情報の非対称性などの難しさを実感できた。」
「裁判だけでなく、企業間の仲介に入ることがあると知り、イメージが変わった。」
「裁判関係の仕事のイメージが大きかったので、法の仕事の再認識ができた。」
ご担当いただいた浦和高校の先生からは、以下の感想をいただきました。
「普段の授業でもグループワークを取り入れていますが、生徒だけで議論を進めると、どうしても視野が狭くなり、独善的になりがちです。今回は、専門的な知識と豊富なご経験をお持ちの方々からアドバイスをいただきながら議論を重ね、さらに「交渉」まで体験することができました。その結果、まさに「主体的・対話的で深い学び」を実践できたと感じています。生徒たちの生き生きとした表情は、この題材への高い興味・関心を物語っていました。今後も、生徒が「幸福」「正義」「公正」などの観点から物事を考えられるようになることを期待しています。」
また、今回コラボした東京大学法科大学院出張教室のご担当者(浦和高校卒業生)から、「当初は、題材の難易度が決して低くはなかったので不安な面もありましたが、浦和高校の生徒の皆さんの熱意、積極性によって予想以上に白熱した模擬交渉となりました。今回の授業を通じて法律が単なる知識ではなく、社会の課題を解決する一つのツールであるということを実感してもらえたなら、卒業生としてこれ程嬉しいことはありません。」という感想をいただきました。
参加講師の感想
村本 静 弁護士
文系・理系を問わず、浦和高校の皆さんに真摯に取り組んでいただき、目の前の問いに対する答えを探求する姿勢に感銘を受けました。私自身、浦和高校在学時は理系のクラスに所属し、大学進学後に法曹を志したこともあり、母校である浦和高校の皆さんにとって、法律家という職業を知るきっかけになればとても嬉しく思います。

