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「B Corp認証」、持続可能なビジネスを目指すための新標準

現代における企業の情報開示の重要性

最近、サステナビリティに関する話題が増えており、日常の買い物をする際にも環境・人権への影響を考える人が多くなっています。

このような時代の流れもあり、サステナビリティに関する情報開示要求が、法的および社会的に高まっています。日本の上場企業では、2023年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書からは、サステナビリティに関する考え方及び取組の開示が義務付けられています。

この背景の一つには、投資家の投資判断基準の変化があります。従来、投資の判断基準は、財務情報が中心でしたが、環境や社会への取組といった非財務情報が重要性を増しています。投資家は、ESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮することで、中長期的にリスクを軽減し、リターンを得ることができるという考えで投資を行う傾向になりました。例えば、世界最大級の機関投資家であるGPIF(Government Pension Investment Fund、年金積立金管理運用独立行政法人)は、ESGを重要な投資判断基準として位置付けています。

また、サステナビリティに関する情報の開示は、企業が投資を受けるためだけでなく、人材の確保や顧客が製品やサービスを購入する際の判断基準としても重視されています。

企業が、今後の社会で持続的に成長し、生き残るためには「環境や社会に配慮した会社」としての姿勢を投資家・消費者・顧客等に示すことが、重要になってきています。

世界の企業が注目するB Corp認証とは

ESG投資や企業の情報開示に対する関心が高まる中、実際には環境への配慮が不十分な商品やブランドが、「エコ」や「環境に優しい」といった誤解を招くようなパッケージを作成したり広報活動を行ったりすることで、情報の信頼性に対する疑念を引き起こすグリーンウォッシュの問題が起きています。実際にどの企業が環境や社会に配慮して活動しているのかを見極めることは容易ではありません。

このような課題に対応するため、企業におけるサステナビリティ活動を明確に示せる認証への関心が高まっています。その中で注目を集めているのが、B Corp認証です。これは、企業が社会的責任、環境への配慮、透明性、そして持続可能なビジネスモデルを追求していることを国際的に証明する認証です。

B Corp(B Corporation)とは、アメリカの非営利団体「B Lab」が提供する民間の認証制度で、環境や社会に配慮し、持続可能な方法で事業を運営する営利団体に与えられます。「B」という名称は「Benefit for ALL(あらゆるものにとってのベネフィット・便益)」を意味しており、社会や環境、従業員、顧客など、すべてのステークホルダーへの便益を追求する企業の姿勢を象徴しています。

認証取得には、まず、ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、顧客の5つの要素に基づく評価で、合計200点満点中80点以上を獲得する必要があります。手続きとしては、関連資料の提出とB-Labによるインタビューを経た後、認証の可否が審査されます。

B Corp認証は、2024年7月21日時点で、世界101カ国で、8,964の企業が取得していて、取得企業は増加しています。アメリカにおけるベネフィットコーポレーション(Benefit Corporation)のように、利益追求だけでなく公益も考慮するという法的義務を負う法人形態がない日本において、B Corp認証は、多くの日本企業から注目を集めるようになってきています。

2024年7月21日時点で、日本におけるB Corp認証を取得している企業は、上場企業2社を含む42社で、B Corp認証を取得した日本企業の数は着実に増えており、また、現在B Corp認証の準備をしている日本企業も多数存在すると聞きます。

B Corp認証を取得するメリット

文頭で簡単に触れた、企業がB Corp認証を取得することで、得られる多くのメリットについてご紹介していきます。1つは投資に関するメリットです。金銭的リターンに加え、環境や社会の要素を考慮するESG投資が注目される中で、B Corp認証は、社会にポジティブな影響を与える企業を明らかにする役割を担っています。また、ESG規制の強化の中でサプライチェーンマネジメントが多くの企業の課題となっています。環境や社会に関する社内体制等が構築されていることを対外的に示すことは、取引機会の維持・拡大にも貢献するといえます。

B Corp認証は、人材獲得と維持においても重要な要素となります。現代の就職市場では「社会的意義のある活動を行う企業や団体で働きたい」と望む人が増えており、この傾向は特にミレニアル世代やZ世代に顕著です。B Corp認証を取得している企業は、こうした価値観を持つ人材にとって魅力的な選択肢となり、従業員のエンゲージメントを高め、就職・転職希望者が企業を見分けるための手がかりともなります。

また、エシカル消費のトレンドが高まる中、B Corp認証は消費者の購買決定においても重要な役割を果たします。環境負荷の低減や社会への貢献を意識する消費者は増加しており、認証を持つ企業の製品やサービスは、消費者にとって魅力的な選択肢となり得ます。

さらに、B Corp認証を取得している企業は、サステナビリティや社会責任といった共通の価値観を持ちます。これらの企業が協力することで、環境や社会に対して、より大きな影響を与えることができます。このコミュニティを通じて、企業はアライアンスを形成したり、ビジネスを発展させたりする機会を得られます。B Corp認証は企業間の連携を促し、社会全体にポジティブな影響を与える強力なツールといえるでしょう。

大企業と小規模企業の異なるB Corp認証 へのアプローチと戦略

企業にとって多くのメリットをもたらすB Corp認証ですが、一般的に、大企業や上場企業が認証を取得することは、小規模な企業に比べると難しいとされています。大規模な組織では事業の総合的な評価が複雑になり、認証プロセスに多大な時間と労力が必要となります。さらに、組織が大きいため体制の構築や改善を施すことも容易にはできません。対照的に、スタートアップや小規模な企業は、組織が柔軟であるため、B Corp認証のプロセスを比較的簡単に進め、必要な改善措置を効率的に実施できる傾向にあります。

大企業や上場企業がこの課題に対応するための一つの戦略として、グループ内の子会社がB Corp認証を取得することで、グループとして認証のメリットを享受する方法があります。また、別のアプローチとしては、既にB Corp認証を持つ企業を買収し、その企業をグループに加えるという方法もあります。

有名な例は、世界的に知られる乳製品メーカーのダノンです。ダノンは複数の国において子会社を通じてB Corp認証を取得しており、2025年までに全ての国の子会社でB Corp認証を取得すると宣言していて、日本のダノンジャパンも2020年5月に取得しています。日本国内でも、上場企業アダストリアの子会社であるADOORLINKが2023年12月にB Corp認証を取得しました。今後も、企業のニーズや社会的な価値観に合致する形で、企業の認証への取り組みが広がっていくことでしょう。

これからの企業が目指すべき「持続可能」な未来

企業が、社会において持続的に成長し、生き残るためには「環境や社会に配慮した会社」であることが求められています。B Corp認証を取得することは、企業が環境保護や社会的責任を果たしていることを外部に示す有効な手段です。しかし、企業は認証取得を最終目標とするのではなく、自己成長の機会と捉えるべきでしょう。

認証の取得過程では、環境への影響、社員の福利厚生、地域社会への貢献など、ビジネスのあらゆる側面が評価されます。企業は、この評価から、自社が優れている点や改善が必要な領域を明確にすることができます。

B Corp認証を取得することは、経済的成功のみならず、環境的・社会的な利益をもたらすビジネスモデルを実現するための一つの方策であり、企業が持続的に成長するための道を示す光となるはずです。