- 対談
女性活躍と時代の変化‐官民の取り組みで拓く未来


日本においては女性活躍の推進は、大きな課題の一つですが、当該課題解決のためには、行政や企業それぞれの、また時には連携しながらの取り組みが必要です。弁護士、市長、経営者。官民の経験から培った多角的な視点を生かして活動を行う越直美先生に、日本企業が取り組むべき課題や必要な視点について、お話を伺いました。社会の構成員として、企業はどのように変化することが求められているのでしょうか。
越 直美Naomi KOSHI
柴原 多Masaru SHIBAHARA
- パートナー
- 東京
80件余りの企業の再生・倒産案件を踏まえ、多角的な観点から、M&A、ファイナンスの調達、私的整理における金融機関とのコミュニケーションに尽力。また従来より、上記案件に加えて、幅広く利害の対立する事業継承...
柴原:越様、ご無沙汰しております。越様は、当事務所のアラムナイ(卒業生)ですが、まずは大津市長を目指されたきっかけをお聞かせいただけますか。
越:留学後に米国の法律事務所に研修に行った際、男性の弁護士が育休を取得したことに非常に驚きを感じました。当時、日本では、子供が産まれると女性は仕事を辞めることも多く、また保育園も少ない状態でした。そんな状況を変えたいと思い、市長を目指しました。
柴原:今は当事務所の男性弁護士も育休をとる時代ですが、それ以前に少子高齢化問題には女性の働く環境も関係してきますからね。女性の働く環境確保のためには、保育園が大事な機能を果たしているところ、保育園を増やすことに、地元の抵抗はあったのでしょうか?
越:保育園を増やすこと自体は、賛成の方が多いです。しかし、保育園を増やすためには、他の予算を減らさなければいけない。そのため、補助金の削減や施設の統廃合を行いましたが、市議会からも市民の方からも、反対の声がありました。
柴原:市としても、予算の裏付けなく、保育園を増やすわけにはいかないので、他の施設や予算が削られるということに市議会として抵抗があるということですね。
越:はい、予算を通すには議会の過半数の賛成を得る必要があります。市長は執行権という非常に大きな権限がありますが、予算が通らないと何もできません。
柴原:説得の際に意識したポイントは何でしたか?
越:議会に予算を提出する前に、関係する市民の方々が「仕方がないな」と思ってもらえるまで、何度も説明に行くことです。泥臭くやるしかありません。
柴原:その結果はどうでしたか?
越:2期8年で保育園など54園(約3000人分)を作り、待機児童もゼロになりました。他県からの転入も増え、大津市の人口が増加しました。

柴原:最近は、根本拓先生(衆議院議員)のように、当事務所から政治家になられる方もいて、アラムナイの方が活躍されるのは、非常に喜ばしいことかと思います。
次に、越様が女性の社外役員のための会社を作られたのはなぜですか?
越:自分が市長としてやってきたことは、女性が働ける環境を作るための社会基盤の整備でした。次は、会社の中を変えたいと思いました。保育園ができて女性が働き続けられるようになりましたが、会社の中での女性と男性の地位が異なり、賃金格差が存在します。日本は女性の役員比率が12.5%(上場企業、2024年時点)で、日本を除くG7諸国の平均38.8%(2022年時点)に比べるとまだ低いです(資料:内閣府男女共同参画局「企業における女性登用の加速化について」参照)。
柴原:女性役員の紹介・育成とはどういうことをやっているのですか?
越:女性の社外取締役・監査役を企業にご紹介しています。また、シリーズのセミナー等を開催しています。この前も、M&Aに詳しい西村あさひの新川弁護士にM&Aの講義を行っていただきました。
柴原:社外役員の今後の動向についてはどうお考えでしょうか?
越:これまで機関投資家の議決権行使基準の変更などにより、女性役員が増えてきました。プライム上場企業については、2030年女性役員30%という政府・東証の目標があり(東京証券取引所「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023(女性版骨太の方針 2023)に係る上場制度の整備等について」参照のこと)、今後も増えていくでしょう。ただ、女性役員のうち、プライム上場企業でも社内役員は1割強と少なく、執行側の女性役員・管理職を社内で育成することも重要になります。
柴原:私も外部企業の社外役員を担当していますが、改めて社外役員に求められるものは何でしょうか?

越:日本でも社外役員が増え、取締役が監督機能を果たすという点は変わってきました。加えて、中長期的な戦略をボードでしっかりと議論することが重要になってきます。社内の目だけでなく、社外の多様な視点から検討していく必要があると思います。
柴原:いわゆるVUCA(Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性))の時代ですしね。社外の目というのは、組織においてどのような意味で重要なのでしょうか?
越:市役所にいて感じたのは、終身雇用の組織ですので、自分たちが20年、30年やってきたことを続けていきたいという想いが強い。このことは民間企業においても通じる部分がありますが、そこを外からの目線を加えて、時代に合わせて変化させる必要があるかと思います。
柴原:最後に、米国においてトランプ大統領が再び就任し、反ESGの流れも出てきました。このような状況が、日本国内へ与える影響はどう考えるべきなのでしょうか?
越:確かに米国内において反ESGという動きは強くなるかと思います。しかし、米国の女性役員が30%を超えているのに対し、日本はまだ12.5%です。機関投資家の動向など注視すべき点はありますが、日本においては、これからも女性役員が求められるでしょう。
柴原:となると、日本社会がまたは会社が「どうしようとしているか」が大事ということでしょうか。
越:はい、それぞれの会社が、女性役員等を増やすにしろ、そうでないにしろ、そのことがどう会社の成長に資するかを含め、株主やステークホルダーに説明することが大事だと思います。
柴原:本日は貴重なお話をありがとうございました。
西村あさひ法律事務所を経て、2012年から大津市長。当時最年少の女性市長として、2期8年務める。20年から三浦法律事務所パートナー。21年に女性役員の育成・紹介を行うOnBoard株式会社を設立。ソフトバンク社外取締役、三菱総合研究所社外監査役。弁護士・ニューヨーク州弁護士・カリフォルニア州弁護士。